よく耳にする「大学無償化制度」という言葉。正式名称は「高等教育の修学支援新制度」といい、授業料がすべて無料になるわけではありませんが、制度に該当するご家庭では授業料や入学金の減免と給付型奨学金の2種類の支援が受けられる制度です。近年、支援内容の変更が続いており、「今の支援内容はいったいどうなっているの?」と思っている保護者の方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、2025年度に変更した新情報も含めて、高等教育の修学支援新制度の内容や利用条件、申請方法を分かりやすく解説します。
目次
大学無償化制度(高等教育の修学支援新制度)とは?
まずは、大学無償化制度と呼ばれている「高等教育の修学支援新制度」の目的や支援内容について見てみましょう。
高等教育の修学支援新制度の始まりと基本内容
高等教育の修学支援新制度は、ご家庭の経済状況にかかわらず、希望する大学、短期大学、高等専門学校、専門学校の高等教育に進学できる機会が持てるように、国が実施している制度です。
2020年度にスタートし、2024年度には扶養する子どもが3人以上いる多子世帯や、私立の理工農系の学部等に通う学生に対する支援を拡大しました。2025年度からはさらに多子世帯への支援が手厚くなっています。
高等教育の修学支援新制度が開始して以降、支援の拡充が続いているため、最新情報をキャッチできるようアンテナを張っておくのがおすすめです。
高等教育の修学支援新制度は、「授業料等減免」と「給付型奨学金」の2種類の支援が受けられる制度です。次の見出しで詳しくお伝えしますが、この制度を利用したとしても、世帯年収や進学先の学校の種類によって、高等教育の費用が完全に無償化されるわけではありません。
そのため、この記事では「大学無償化制度」ではなく、正式名称の「高等教育の修学支援新制度」を用いて説明します。
授業料等減免と給付型奨学金はどんな支援?
・授業料等減免
授業料等減免とは、授業料や入学金の免除または減額を指します。誰でも授業料等が減免になるわけではなく、世帯収入に応じた4段階の基準で支援額が決定します。
たとえば、私立大学に通う場合、授業料の支援金上限額は年額約70万円、入学金の支援金上限額は約26万円です。もし、年間授業料や入学金が支援額を上回るようであれば、差額を支払う必要があります。
・給付型奨学金
給付型奨学金は、日本学生支援機構(JASSO)が行っている、返還する必要がない奨学金のことです。給付型奨学金も誰でも受け取れるものではなく、支援を受けるためには「学力」「世帯収入や資産」の2つの条件を満たす必要があります。
また、授業料等減免と同じく、世帯収入に応じた4段階の基準で支給額が決定し、私立大学を自宅外から通学した場合の支給額の上限は年額約91万円です。
このように、世帯収入によって受けられる支援に差があり、誰もが完全に無償化されるわけではないということを覚えておいてください。
高等教育の修学支援新制度の適用条件をもっと詳しく!
※ 高等教育の修学支援新制度の高校生リーフレットをもとに東京個別指導学院が作成
※1 「~600万円」の区分では……
・多子世帯の場合、給付型奨学金(1/4)と授業料等減免(満額)
・私立学校理工農系学部の場合、給付型奨学金の支給はなしで授業料等減免(1/3あるいは1/4)」
の支援が受けられる
世帯収入などの条件と支援額について、さらに詳しく見てみましょう。
高等教育の修学支援新制度の支援対象となる世帯年収とは?
・支援対象かどうかを決める算式と基準額
高等教育の修学支援新制度を利用できる条件の一つが世帯収入です。支援対象世帯となるかどうかは、以下の算式と基準額で確認することができます。
【算式】
市町村税の所得割の課税標準額 × 6% - (調整控除の額+税額調整額) |
※文部科学省「支援対象者の所得に関する要件及び目安年収」をもとに東京個別指導学院が作成
このように、算式によって出された金額ごとに、支援区分が第Ⅰ区分から第Ⅳ区分に分けられ、それぞれの支援額が決められています。第Ⅰ区分が基準額であり支援の上限です。
第Ⅳ区分は、多子世帯と私立学校の理工農系学部等の学生がいる世帯に限定された区分です。第Ⅳ区分の多子世帯であれば、給付型奨学金が基準額の1/4と、授業料等減免が上限額まで支援されます。一方、第Ⅳ区分の理工農系学部等の学生がいる世帯では、給付型奨学金の支給はありませんが、授業料等減免が基準額の1/3あるいは1/4支援されます。
・家族構成と世帯収入の目安も見てみましょう
算式の計算がやや複雑なため、家族構成と世帯収入(年間)の目安も見てみましょう。
※文部科学省「支援対象者の要件(個人要件)等 <所得に関する要件と目安年収>」をもとに東京個別指導学院が作成
※年収は、両親の年収を合計したものとし、1万円の位を四捨五入している
※子について、本人は18歳、中学生は15歳以下、高校生は16~18歳、大学生は19~22歳とする
※給与所得以外の収入はないものとする。(事業所得の場合は、目安年収が上記と異なるため)
たとえば、両親と子2人(本人・中学生)の4人家族の場合、世帯年収が約270万円未満で給付型奨学金と授業料等減免の上限額が支援されます。そして、同じ家族の条件で世帯年収が約640万円以上では、高等教育の修学支援新制度の支援を受けることはできません。
ただ、この表はあくまでも目安です。支援の対象かどうか正確に知りたいときは、マイナポータルでご家庭の市町村民税の課税標準額などを調べ、上の算式で計算してみましょう。
授業料と入学金はいくら減免されるの?
次に、上限額が支給される第Ⅰ区分の授業料と入学金がいくら減免されるか見てみましょう。
※文部科学省「授業料等減免額(上限)・給付型奨学金の支給額」より東京個別指導学院が作成
※単位未満を四捨五入しています
上の表にあるように、大学の種類や国公立か私立かによって減免される金額は異なります。たとえば、第Ⅰ区分世帯の方が国立大学に進学する場合、入学金として約28万円、授業料として毎年約54万円支援されます。
多くの国立大学では、授業料が53万5,800円(年間)、入学金が28万2,000円となっており、第Ⅰ区分世帯の方は高等教育の修学支援新制度を活用することで、ほぼ無償で大学に通うことができます。
同じように国立大学に進学する第Ⅱ区分世帯の場合は、上限額の3分の2の支援となるため、授業料約36万円(年間)、入学金約19万円の支援となるのです。
給付型奨学金はいくら支給される?
給付型奨学金の支給額についても見てみましょう。第Ⅰ区分の給付型奨学金の支給額は以下の通りです。
※文部科学省「授業料等減免額(上限)・給付型奨学金の支給額」より東京個別指導学院が作成
※単位未満を四捨五入しています
※生活保護世帯で自宅通学する人および児童養護施設等から通学する人はさらに増額
表にあるように給付型奨学金の支給額は、大学の種類や国公立か私立か、さらに自宅通学か自宅外通学によって支給額が異なります。
第Ⅰ区分世帯の方が国立大学に自宅から進学する場合、支給額は年額約35万円支援されます。同じ条件で第Ⅲ区分世帯の場合は、支給額が3分の1となるため、年額約12万円となるのです。
高等教育機関とはどのような学校?対象となっている学校は?
高等教育の修学支援新制度では、大学だけでなく短期大学や高等専門学校(4年生、5年生、専攻科生)、専門学校などの学校も対象です。
ただ、すべての高等教育機関が対象というわけではありません。質の高い教育を実施する大学等を対象機関とするために、修学の支援に関する法律に基づいた「教育要件」と「経営要件」が設定されており、2つの要件を満たした大学等のみが対象機関となるのです。
対象となっている大学・短期大学は?
高等教育の修学支援新制度の対象となっている大学・短期大学の数は、2025年2月時点で1,001校あります。全国にある大学・短期大学の学校数は1,055校あり、要件確認割合は94.9%でした。
多くの大学・短期大学が対象機関として認定されているものの、中には対象となっていない大学もあります。進学を希望している大学は制度の対象なのか、文部科学省の対象機関リストから事前に確認しておくと安心です。
対象となっている高等専門学校・専門学校は?
2025年2月時点 で、高等教育の修学支援新制度の対象となっている高等専門学校の数は56校、専門学校は2041校あります。全国にある高等専門学校の学校数は57校あり要件確認割合は約98.2%、専門学校の学校数は2,600 校あり要件確認割合は78.5 %でした。
高等専門学校と専門学校においても、対象となっていない学校もあるため、事前の確認が必要です。
▼「高等教育の修学支援新制度の対象機関リスト(全機関要件確認者の公表情報とりまとめ)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/1421838.htm
2025年度から開始!多子世帯向けの高等教育の修学支援新制度はどう変わった?
2025年度から高等教育の修学支援新制度における、多子世帯に対する支援が拡充されました。
※文部科学省「多子世帯の大学等授業料・入学金の無償化について」をもとに東京個別指導学院が作成
この制度の「多子世帯」とは、子どもが3人いるという意味ではなく、扶養する子どもが3人以上いる世帯を指します。そのため、第1子が就職し保護者の方の扶養から外れた場合、扶養する子どもの数が1人減るので注意しましょう。第1子が大学院に進学した場合は、扶養する子どもの数に含みます。
また、対象となる子どもが海外留学し海外の大学等に通う場合は、授業等減免の対象外です。ただし、海外留学の場合は、別の給付型奨学金があります。
一番大きな変更点は、授業料等減免において所得制限がなくなったことです。そのため、世帯年収にかかわらず、扶養する子どもが3人以上いる大学等に通っている世帯に、第Ⅰ区分の世帯と同じ上限額が支援されます。
たとえば、国公立大学なら入学金約28万円、授業料約54万円(年額)が支援されます。対象学校の種類や学習の要件などの変更ありません。また、給付型奨学金の支給額については、多子世帯であっても世帯収入に応じた支援区分の金額となるので注意が必要です。
注意!2025年度から学業要件が変更
高等教育の修学支援制度の要件に……
・採用時に学習意欲等が確認できること
・採用後に出席率等に係る要件を満たすこと
という学業要件があります。
2025年度より、この学業要件の採用後の内容が変更されました。2025年度からの学業要件は以下の通りです。
※1 卒業に必要な単位数が124単位の場合、4年で割りその単位数を元に計算
※2 警告がGPA要件のみの場合は支援打ち切りではなく次の判定まで支給停止
※ 文部科学省「高等教育の修学支援新制度」をもとに東京個別指導学院が作成
採用後の学業要件には、出席・単位・成績の基準を満たす必要があります。支援継続のためには、学業要件をきちんと満たす必要があるため注意しましょう。思いがけない事情がある場合は、要件を満たさなくても支援打ち切りにならない可能性があるため、困ったときは大学等に相談してみるといいですね。
高等教育の修学支援新制度の利用手続きと注意点
最後に、高等教育の修学支援新制度の利用手続きと注意点をご紹介します。
高等教育の修学支援新制度の申請方法
給付型奨学金と授業料等減免の申請は別々に行う必要があります。それぞれの手続き方法を見てみましょう。
・給付型奨学金の手続き方法
お子さまが高校生などの場合、給付型奨学金の手続きは、高校などを通じて日本学生支援機構(JASSO)へ行います。
流れとしては、4月下旬に申し込みを行い、秋ごろに採用候補者が決定します。入学後に進学先の大学に採用候補者決定通知を提示し、JASSOへの進学届を提出したら完了です。
また、給付型奨学金は、進学先の大学等でも申し込みが可能です。大学等ごとに申し込み期間や方法が異なるので、時期が近づいたら学校に問い合わせてみましょう。申し込み時期の目安は、4~6月と9~11月です。
申し込みには、高校等からもらう関係書類に加えて、お子さまと保護者の方のマイナンバーの提出が必要です。早めに準備しておきましょう。
なお、2025年度の多子世帯の手続きは高校等では行えず、進学先の大学等でのみ申し込み可能なためご注意ください。
・授業料等減免の手続き方法
授業料等減免の手続きは、高校等では行っておらず、進学先の大学等で行います。入学手続きと合わせて申し込みを行う場合があるため、入学が決まったら進学先の学校へ手続きの時期や必要なものを問い合わせておくと安心ですね。
修学支援で進学のチャンスが広がる
高等教育の修学支援新制度は、大学や短期大学、高等専門学校(4.5年)や専門学校などの進学で利用できる、入学金・授業料の減免と返還する必要のない給付型奨学金が受け取れる制度です。ただ、世帯収入や進学先によって授業料が全額無償化されるわけではないため、大学等進学のための貯蓄は、早めに進める必要があります。また、東京都・大阪府・兵庫県などでは、都府県民に対する公立大学等の授業料の無償化を行っています。今回ご紹介した高等教育の修学支援新制度の活用も含めて、経済的な理由で進学を断念していたご家庭にとって、志望校の幅を広げるチャンスになるでしょう。
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