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子どもを伸ばす学習方法とは?子どもの学力と生活習慣の関係性 ~教育クリエイター・陰山英男さん~

子どもを伸ばす学習方法とは?子どもの学力と生活習慣の関係性 ~教育クリエイター・陰山英男さん~
「勉強時間は長いのになかなか成績が伸びないのはなぜ?」「家庭ではどんなふうに勉強すればいいの?」など、お子さんの学習方法にお悩みの保護者の方も多いのではないでしょうか。今回は、基礎学力の向上や、それに関する学習教材の開発などで有名な陰山英男さんに学力を伸ばすための学習方法や生活習慣についてお聞きしました。

小学校教員時代に生まれた陰山式「徹底反復」型教材

小学校教員時代に生まれた陰山式「徹底反復」型教材

今回はいつもの喫茶店「Café du cation」を出て、教育クリエイターの陰山英男さんにお話を伺いにきました。陰山さんは「徹底反復シリーズのドリル」をはじめとする数多くの教材を出版されているので、お名前を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

もちろん知っています!陰山さんの教材というと、漢字などの反復学習や百ます計算が有名ですよね。

「反復学習」と聞くと、基本的な読み書き計算の練習をするイメージがありますが、実際にはどのような勉強法のことを言うんですか?

私が提唱している反復学習は単に知識を覚えるというものではなく、覚えた知識をしっかりと定着させるための学習方法です。基礎や基本があいまいなままでは、その知識を応用できません。たとえば、社会の学習は教科書を読むことから始まるため、漢字(=基本)が苦手だとつまずきやすくなってしまいます。

なるほど。陰山さんがこの反復学習に着目したきっかけはなんですか?

私が小学校の教員を始めたのが、ちょうど私立中学校の受験が激化した時代でした。進学塾に通うお子さんたちは、大人でも解けないような最難関の私立中学の入試問題が解ける一方で、基本の問題やひっかけ問題につまずいていたんです。それを見て、「難しい問題が解けることが本当の学力なんだろうか?」と疑問に思ったことがきっかけでした。

つまり、難しい問題は解けるけれども、それは手順を記憶しているだけで、問題の本質は理解していないというようなことでしょうか。

そのとおりです。よく言われることですが、「思考力」は基礎力を組み合わせたものなんです。ですから、反復学習を徹底的にやることで考える力も育っていくと考えました。「読み書き・計算といった基本的なことはさっとできるように定着するまでくり返しやる」ことが、学習をする上で大切なポイントになってきます。

なるほど…。読み書き・計算をくり返し演習する大切さを改めて感じます。基本をしっかりと身につけるために、今ある漢字ドリルや百ます計算が開発されたんですね。

実は、百ます計算は私ではなく、岸本裕史先生が開発されたものなんです。私が公立小学校の教師になったころは、「勉強ができない子どもをどう伸ばすか」を考えるため、勉強会や研修会に参加してありとあらゆる指導法を学び、試していましたが、なかなかピンとくるものがありませんでした。そのなかで感銘を受けたのが、指導法ではなく、教材としての岸本先生の百ます計算だったんです。この出会いが教える立場から、教材づくりにシフトしていく転機になりました。

教え方ではなく、教材に着目されたんですね。

はい。「なにができるようになってほしいのか」を考え、まずは子どもたちが苦手な部分を中心にしたプリントづくりに取り組みました。主に成績があまりよくない子どもたちが苦手な部分を集めてプリントをつくっていたんですが、意外なことに、成績がよい子どものなかにもそれを苦手とする子が必ずいたんです。

成績がよく、比較的難しい問題も解ける生徒さんでも、基礎的な知識が身についていなかったということですね。

そのとおりです。また、百ます計算や漢字プリントをくり返し行うことで、授業はそれほど工夫しなくてもクラス全体でテストの点が上がることに気が付きました。

あいまいなままになっていた基礎的、基本的な部分をカバーすることで、生徒さんたちのテストの点数が上がったのでしょう。徹底反復学習の教材は、陰山さんの教師時代のご経験から生まれたものだったんですね。

子どもの学力向上と生活習慣改善の関係性

子どもの学力向上と生活習慣改善の関係性

陰山さんが小学校の教員をされていたころは、ちょうどゆとり教育後の学力低下が問題になっていた時代だそうですね。

はい。ただ、学力の低下はゆとり教育だけが原因ではなく、生活習慣の乱れもその一因を担っていると感じていました。さきほどすこし触れましたが、当時は中学校受験が激化していて深夜1時まで塾通いというお子さんもいました。

小学生が深夜1時まで勉強していたんですか!?それは確かに心配ですね。

そうなんです。反復学習の重要性に気づいた一方で、生活習慣の改善というのも教師時代の私の大きなテーマでした。そこで、今から20数年前になりますが、「睡眠・食事習慣の改善と、読み書き・計算の基礎学力向上の相乗効果により、子どもたちの学力は伸びていくだろう」という仮説をもとに、3校目に赴任した兵庫県朝来町立(現在は朝来市立)山口小学校で子どもの生活習慣を調査するアンケートを行ったんです。その結果、寝るのが遅い子や食事の内容がわるい子の成績が低いということがわかりました。

そうだったんですね!驚きです。 

就寝時刻に対する学力偏差値の関係
                   (山陽小野田市調査 平成18年 市内小学生対象)

山陽小野田市で行ったアンケート調査でも、山口小学校と同様の傾向が見られました。また、このアンケート調査では、家庭のなかでいちばん最後に就寝するのが保護者(母親)で、就床時刻は夜11時半から12時ごろが多いということもわかりました。保護者の就寝時刻が遅いと、朝ごはんが簡素になりがちです。アンケートを取ったクラスの全体の約8割が農家であるにもかかわらず、パン食が全体の3分の2、さらにそのうちの半分がパンと飲み物だけの朝食だったんです。

パンと牛乳だけの朝食は、確かににすこしさみしい感じがしますね。

はい。そこで山口小学校では「早寝早起き朝ご飯」というスローガンをつくって、子どもの生活習慣の改善を徹底して指導することになりました。

2007年から再開された全国学力テスト(全国学力・学習状況テスト)でも、生活習慣のアンケートが実施されていますね。

実は、全国学力テストの生活習慣アンケートは山口小学校のアンケートが土台になっているんですよ。

今でも学校で「早寝早起き朝ご飯」という指導をされますけれど、陰山さんが発案されたものということですか!?

はい。私が2000年にNHKの「クローズアップ現代」に出演させていただいた直後に、広島県の教育委員会の方が山口小学校に視察に来られてデータをもち帰られたんです。そのときの広島県の教育委員長がのちに文部科学省で全国学力テストの設計に携わられたという経緯もあり、文部科学省でも国民運動として推進されることになったんです(※1)。

今では当たり前のように聞く「早寝早起き朝ご飯」は、そんなふうに始まったんですね!

「当たり前」と言ってもらえるのは、うれしいですね。文部科学省の指導のもと、この10年で子どもの就床時刻というのは劇的に早くなり、朝食の摂取率は小学生、中学生共に10%以上も上がりました。学習内容を高度化しながら、生活習慣にも十分注意した指導がなされるようになりました。その結果、国際的な学力調査でも日本の子どもたちの学力は伸びているので、私としてもうれしい限りです。

【関連記事】:お子さんの勉強に、
親はどのように関わるべき?

中学生にも応用できる。子どもが伸びる学習方法とは?

中学生にも応用できる。子どもが伸びる学習方法とは?

陰山さんの教材は小学生向けのものが中心という印象がありますが、中学生にも応用できる学習方法があれば教えていただけませんか?

実は、中学生で経験するつまずきの大半は、小学生の段階でつまずいていた部分なんですよ。小学校3年生、4年生で学習した部分から苦手が始まっていることが多いようです。ですから、小学生の段階でのつまずきを取り戻すという意味では、中学生のお子さんにも私の教材は応用していただけると思います。実際、中学校、高校の先生が授業で私の教材を使われることもあるようです。

高校でも陰山さんの教材が使われているんですか?

よく話題になりますが「九九が言えない高校生」というのは、それほど珍しいことではないんです。中学生が小学生の内容を学習することについて、学習するお子さんのプライドや気持ちには配慮が必要ですが、同じ内容でも小学校3年生と中学1年生では、後者のほうが効果的に成果が出ます。

なるほど。お子さんの学力がグンと伸びる学習方法のポイントはありますか?

いちばん大事なのは、勉強時間を短くすることではないでしょうか。多くの方が、30分より1時間、1時間より2時間勉強したほうがいいと思っているかもしれません。しかし、小学生の例ですが、1日の勉強時間が2時間を超えると成績が急激に落ちるというデータがあります。4時間以上になると、成績はさらに落ちてしまいます。長時間にわたる勉強では、お子さんの集中力が続きません。ですので、勉強は「効率的に要領よく」を心がけましょう。

なるほど!確かにだらだらと机に向かっているより、短い時間で集中したほうが効果的な学習になりそうです。

短時間で効率的な勉強をするためには、たとえば「1ページを15分でやる」など自分なりに目標を立て、スピード感をもって取り組むことが大切です。私が徹底反復学習を提唱する理由の1つでもありますが、学習したことが活用できるようなるには、くり返し取り組んで定着させることが重要です。難しい問題を1時間かけて解いて「よくがんばったわね」と終わらせるのではなく、学習したことを定着させ、次の問題を解くことにつなげていきましょう。

子どもの学力を伸ばすために、親ができること

子どもの学力を伸ばすために、親ができること


学習方法以外で、お子さんのために家庭でしてあげられることはありますか?

私は毎年、何十件と行っている家庭訪問で子どもの性格と家庭の雰囲気の関係を考えるようになりました。不思議なことに、おだやかな心地よさが感じられる家庭のお子さんは基本的にコミュニケーション能力が高く成績がいいことが多いです。

うちは大丈夫かしら? 心配になってきました。

難しく考えることはありません。たとえば有名私立中学の受験を考えている場合、うまくいく最大のポイントは保護者がお子さんの受験を一緒に楽しめるかどうかです。たとえば、「あなたの将来のためなんだから、いまがんばりなさい!」と言われたお子さんは、受験がプレッシャーとなり重圧に押しつぶされてしまいます。ですので、「うちの子があの中学校に入れたらいいなあ」くらいの心構えのほうが、案外うまくいくものなんですよ。

保護者である私が楽しめているかも考えて、うちの子との接し方を見直してみようと思います。

家庭の雰囲気ということでもう1つ気をつけていただきたいのは、いま流行っている「リビング学習」です。「リビング学習」にダイニングテーブルを利用しているご家庭も多いかと思いますが、ダイニングテーブルでは保護者の方と面と向かって勉強することになるので緊張感が強くなりすぎます。お子さんの視線から保護者の方の顔が見えない位置に学習机をおくなどすると、お子さんも集中して勉強できるでしょう。生活のなかにさりげなく学習がある。こうした心地よさを心がけていただきたいですね。

確かに、リラックスして学習に取り組んだほうが集中できそうです。我が家でも心地よい学習環境を意識してみます。

ぜひ実践してみてください。とは言え、昨今の保護者の方は歴史的に見てもハイレベルな教育をされていると私は思っています。ひと昔前とは違い、書店には教育関連の書籍や子ども向けのドリルも増えましたし、インターネットでも教育のノウハウを知ることができるようになりました。こうした情報を手軽に得られるようになったことが、ハイレベルな教育の大きな支えになっていると思います。「2015年のOECD生徒の学習到達度調査 (PISA)」という国際的な学習到達度に関する調査では、日本の子どもたちの学習到達度は世界でもトップクラスであることがわかりました(※2)。ですから、中高一貫校、高校受験、教育改革と子どもの教育についていろいろ言われますけれども、保護者の方はあまり細かなことに心配しすぎることなく、ぜひ楽しんで子育てをしてください。

■参照:
(※1)
参照:「早寝早起き朝ごはん」国民運動の推進について:文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/asagohan/
参照:[pdf]こどもと保健 No.58より(1.04MB) - 光文書院
http://www.kobun.co.jp/Portals/0/resource/dataroom/magazine/dl/hoken58.pdf
(※2)
参照:OECD生徒の学習到達度調査(PISA):国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/#PISA2015

陰山英男(かげやまひでお)
【プロフィール】
陰山英男 (かげやまひでお)
1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒業。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代より反復学習や生活習慣の改善を柱に生徒の学力向上に取り組み、「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。2001年、累計1,500万部となる「徹底反復シリーズ」(小学館)の出版を開始。広島県尾道市立土堂小学校校長、立命館大学教授、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員長などを歴任。現在も陰山ラボ代表、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、徹底反復研究会代表などとして勢力的に活動を続けている。

公式ホームページ「陰山ラボ」 http://kageyamahideo.com/
NPO法人日本教育再興連盟(ROJE) http://kyouikusaikou.jp/
徹底反復研究会 http://hanpuku.jp/