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子どもの算数障害とは? 算数に困難のある子どものサポート法 ~筑波大学教授・熊谷恵子さん~


「九九をいつまでも覚えられない」、「簡単な計算にとても時間がかかる」。もしかしたらその原因は「算数障害」かもしれません。発達障害の1つである学習障害に分類される算数障害。筑波大学教授で学習障害の子どもの教育相談や支援を行っている熊谷恵子さんに、算数障害の定義や特徴、算数に困難のある子どもをサポートする方法などをうかがいました。

算数障害とは?

学習障害は、ここ10数年で多くの人に知られるようになりました。今回は学習障害の1つである算数障害について注目していきます。お話をうかがうのは、学習障害のお子さんの教育相談や支援を通して算数障害の研究をされている、筑波大学教授の熊谷恵子さんです。

あまり耳慣れない言葉ですけれど、算数障害とはどんな障害なんですか?

発達障害に分類される学習障害の1つです。算数障害であることを判断する基準として、「数処理」「数概念」「計算」「数的推論」があります。

1つ目の「数処理」というのは、数詞、数字、具体物、これらの3つの対応関係がわかるかどうかということです。たとえば1という値の読み方は「いち」で、これが数詞です。書き方は「1」で、これが数字です。この数詞と数字と具体的にある物と結びつけて考えられるかどうか。この3項が結びついていないと、数字は書けるけれど読めなかったり、「3個とって」と言われたときに正しい数をとれなかったり、ということが起こります。

2つ目の「数概念」では、数の量的な概念を表す「基数性」と、数の順序を表す「序数性」が理解できているかが問われます。「基数性」がわからないと、数の大小関係が理解できません。「序数性」がわからないと、列の何番目に自分がいるか答えられなかったり、数詞等の系列が正しい順序で言えなかったり、といったことが起こります。

3つ目の「計算」は、暗算と筆算にわけて考えられています。暗算は和が20までの数のたし算やひき算や、九九の範囲のかけ算わり算ができるかどうかが判断基準となっています。また、筆算はそれ以上の計算の問題で数字をうまく配置できるかどうかという視空間認知の能力と、くり上がりやくり下がりなどの手続きができるかどうかがポイントになります。

最後の「数的推論」では、具体的には文章題のことを表しています。設問の文章を読んで具体的な場面を思い浮かべることができ、式を立てて、計算し答えを導くことができるかどうかが問われています。 知的能力は低くないのにこのような問題が見られる場合、「算数障害」である可能性が考えられます。

「算数障害」と聞くと、学校の算数にまったくついていけないというイメージでしたが、細かく分類があってそのどれかができないという定義なんですね。

そうです。暗算はできるけれど、筆算ができない。数の序数性、順番はわかるけれど、基数性、量としての数がイメージできない。このように算数の一部分がうまくいかないお子さんを算数障害と考えるんですね。

算数障害の内容をみると、難しくなってくる高学年の算数というよりは、数の概念や計算などごく基本的なことで分類されているという印象です。

そうですね。WHO(世界保健機関)が作成した「疾病、傷害及び死因の統計分類(ICD-10)」(※1)では「算数能力の特異的障害」として算数障害が挙げられています。「この障害は算数能力における特異的な機能障害で、全般的な知的障害<精神遅滞>や不十分な学校教育のみでは説明することができないものを包含している。欠陥は代数、三角法、幾何、微積分などの、より抽象的な数学的能力よりは、むしろ加減乗除の基本的計算能力の習熟にかかわっている」とあるように、高度な算数や数学についての問題は含まれません。つまり、算数障害として考えるのは、たし算、ひき算、かけ算、わり算の四則演算の分野が中心です。そしてそれ以前の数が書ける、言える、数字の量的な感覚がわかる、計数できるといった分野も含めて困難がないか判断します。

知的能力が低くないことも条件とのことですが、基準となる値があるのでしょうか?

IQ(知能指数)の平均は100で算数障害についての基準となるIQの値に関しては研究者によっても違いますが、おおよそIQ90以上が目安になります。

では算数障害のお子さんは、全国にどれくらいの割合でいるんですか?

2012(平成24)年に文部科学省が調査したところ(※2)、『「計算する」「推論する」について著しい困難を示す』児童生徒の割合は2.3%でした。この調査は通常のクラスに在籍するお子さんを対象に、一部の地域を除いた全国の学校の教員が答えたものです。算数障害の細かい分類には触れていませんし、専門家の判断によるものではありませんが、1つの目安にはなるでしょう。 学習障害とIQの関係では「境界」と呼ばれる層についても考える必要があります。IQが70以下では知的障害とされます。算数障害とされるのはIQ90以上が目安ですが、これらのあいだのIQ70台から80台のお子さんたちが「境界」にあたります。

2007(平成19)年から学校教育法に「特別支援教育」(※3)が位置づけられ、障害のあるお子さんの支援が進められています。しかし、「境界」にあたるお子さんが支援を受けられないという議論もあるようですね。

知的能力が「境界」にあるお子さんは13%ほどいるとされています。算数では、複数の物事から共通点を見出してそれを一般化する抽象化の能力が求められます。しかし「境界」のお子さんの多くにとっては、これはとても難しい作業です。算数障害とされなくても、こうした層のお子さんも特別支援の対象として支援していくべきだということは、私が訴え続けていることです。

算数障害の子どもの特徴とは?

算数障害であることに気づくのは、何年生くらいが多いのでしょうか?

数処理や数概念は、算数という教科を学んでいくなかで身についていくものです。就学後でないと算数障害という定義がつけられませんので、就学後に気づくことが多いと言えます。ただ、小学校に入る前にも数にかかわる様々な体験から数処理に関する知識や10までの数の概念は理解しています。就学前でも、みかんを3個ちょうだいと言ったときに2個しかくれないとか、数を数えるときに数詞の序数性が安定しないといったことで気づくこともあるかもしれません。

算数障害のお子さんの特徴はどんなものですか?

一般的な特徴としては、「いつまでたっても計算が遅い」、「学年が上がっても指で数えないとうまく計算できない」「数の大小がわからない」などが挙げられます。

算数障害になる原因はわかっているんでしょうか?

算数障害は、知的能力は低くなくても、認知能力にアンバランスがあるために起こると考えられています。

認知とは、見たり聞いたりして得た情報を脳で処理するプロセスのことですね。

はい。もうすこし細かく説明すると、認知能力は視覚、聴覚、運動覚といった感覚の問題と、1つひとつ順を追って処理する継次処理、全体を把握する同時処理といった処理様式の問題に分けて考えることができます。たとえば、数詞を覚えるには耳で聞いて覚える、つまり聴覚認知能力や聴覚的短期記憶などが主に必要になります。数には順序があることを理解するためにかかわってくるのは、1つひとつの情報を順を追って処理する継次処理能力です。

発達障害は、脳の機能に問題があるために起こると聞いたことがあります。ということは、その発達障害の1つである算数障害でも、同じことが言えるのでしょうか?

はい、同じように考えられています。ただし、算数にかかわる脳の部位は広く、特定が難しいんです。たとえば、「さん」という数詞は聴覚的なもので、具体物であるみかん3個と「3」という数字は視覚的なものです。聴覚認知と視覚認知のどちらが劣っていても3項の対応関係が成立しません。これはほんの一例で、算数にかかわる脳の部位はあまりにも多く、算数障害に対応する脳の部位は特定できていないというのが現状です。

文部科学省の学習障害の定義(※4)でも、「学習障害は、その原因として、中枢神経系になんらかの機能障害があると推定される」とされていますね。

なるほど。脳での情報処理にうまくいかない部分があって、数の理解や計算に困難が現れるというイメージでしょうか。では、算数障害は治すことはできますか?

障害という名前がついていますから、根本的には治りません。ただ、それぞれのお子さんの課題によっては、うまく解決できるようにさせることはできます。

治すのではなくて、課題を解決する方法を探すんですね。熊谷先生は相談に来るお子さんに、どのように対応されているんですか?

まず、知的能力や、ここまでお話したような認知能力の高い・低いを見極めることが重要になります。このため、発達障害のお子さんの知的発達を多面的に検査できるWISC-Ⅳや、認知能力だけでなく学力も測ることができるKABC‐Ⅱといったテストを用いて認知能力のバランスをチェックします。 これらの結果から、全般的に知的能力が低い場合には、成人したときにどういうところで働くことができるかという点からトップダウンで考えて、今、習得しておくべきスキルを考えていきましょう、とうながします。知的能力が低くなく、認知能力のアンバランスがあって算数に困難がある場合は、算数の学習支援を行っています。

算数に困難がある子どもへの学習支援

算数に困難があるお子さんのための学習支援というと、どんな内容になるのですか?

まずは、さきほど言ったような検査を行い、どこが苦手なのかを調べます。その上で、能力の高いところを活用して、能力の低いところを補うかたちで学習支援を進めます。 たとえば多数桁の数字の筆算では、桁を間違えないよう配置して適切な計算手続きを行うことが必要です。このため、筆算が苦手なお子さんは、目で見て全体を把握する能力が弱い、つまり視空間認知能力や同時処理能力が低い場合と、順を追って処理する能力が弱い、つまり継次処理能力が低い場合が考えられます。前者のタイプは、マス目のあるノートを使って筆算に取り組ませます。後者のタイプは、計算の手続きを文章にした手順表をつくって計算させてみると、うまくいくことがあります。

算数のなかでは、九九でつまづくお子さんが多いと思いますが、九九が覚えられないなどの困難がある場合はどのように教えるのがいいでしょうか?

「イチイチガイチ、イチニガニ」と唱えて九九をリズミカルな音で覚えるのは、日本ならではのいい方法だと思います。ただ、聴覚的な短期記憶が弱いお子さんにはすごく苦しいものなんですね。そういうお子さんは、聴覚認知は弱いけれど視覚認知はできることが多いので、目で見てわかるように九九の表を使って教えます。 九九表を見ながら、「かける数の列の数字はどういうふうに変わっていくかな?」「かけられる数はどう変わる?」「ななめは?」「答えの列は?」と聞いて、お子さん自身で考えさせます。こうすることで、表のなかでどういう式や答えがどんな位置にあるのかということが理解できれば、九九は言えなくても、九九ができないということは解決できます。

なるほど!聞いて覚えるのが苦手なお子さんは、視覚を使って位置を覚えるといいんですね。

苦手なお子さんが多い分数についてはいかがですか?

さきほど知的能力の境界線にあるお子さんの話が出ましたけれど、この層のお子さんにとって分数はとても難しいものの1つです。以前、ある施設でまさにIQ85くらいの境界線のお子さんたちの算数の能力を調べたことがありました。ランダムに並べた2分の1、3分の1、5分の1を、「小さい順に言ってください」と聞くと、「2分の1、3分の1、5分の1」と答えるんですね。 また、ピザの絵を見せて「8分の1ってどのくらい?」と聞くと、8個に割ったうちの1つを指すことはできます。ところが長方形の箱に入っている8個のお菓子のうちの1つが8分の1ということがわかりません。 次に、細長いようかんの絵を見せて「扇型のピザの8分の1と、ようかんを8個に分けたうちの1つの長方形は同じ8分の1」「箱のなかのお菓子も8個のうちの1つだから8分の1」というように段階を分けて教えます。具体物を数という抽象的なものに結びつけて考える練習をするんですね。

うちの子は文章題が苦手なんですが、どういうふうに教えたらいいのか困っています。

文章題では、文章に書いてある状況を視覚的なイメージとして思い浮かべることが重要です。算数障害のお子さんで文章題が苦手な場合、このイメージ化がうまくできないことが多くあります。ですから、文章題を3つくらいの場面に分けて、この場面ごとに自分がイメージすることのできる絵を描いてもらいます。
ここで大切なのは、自分でイメージを考えるというプロセスです。ほかの課題でも同じように自分で考えることが大切ですので、時間がかかっても本人に考えさせています。

保護者としては、基本的な計算などはうちの子に「わからない」と言われてしまうと、どのように教えればいいのか悩んでしまいます。ここまでお聞きした内容は、算数を教えるときにとても参考になりそうです!

教科としての算数というのは「できるか」「できないか」で、できなければ「バツ」と評価されてしまいます。このことから、算数障害のお子さんはもちろん、算数に困難があるお子さんの多くは自尊感情が傷つきやすいのです。そこで計算問題をくり返し解くようなドリル形式の学習をさせても課題は解決されません。算数がどんどんきらいになるだけです。私が学習支援を行うときには、お子さんが楽しく興味を持って課題に取り組めるように工夫することを心がけています。

家庭では数を意識した体験を大切に!

確かにドリル式の学習は逆効果になりそうですね。家庭で算数を教えようと思うとき、できることはありますか?

算数を教えこもうと思わないことです。いくら紙の上で問題を解いても、数というものを理解せずに計算という手続きを覚えるだけになってしまうこともあります。これでは、根本的な解決にはなりませんし、学年が上がればいずれ限界がきます。それよりも、生活のなかで数を使った経験をたくさんさせてあげてほしいと思います。

具体的にはどんなことですか?

「みかんを3個もらうより、5個もらうほうがうれしかった」「友だちは虫を5匹も捕ったのに、僕は2匹しか捕れなくて悔しかった」。お子さんの発達の過程を考えるとき、このような自分の喜びや悲しみといった情動に結びついた経験が、数と量の感覚を育てるのに大切なことになります。 たとえば、お風呂で「お湯につかって30数えようね」ということも、とても大切な経験です。このとき重要なのは、30まで正しく数えられるようにくり返し唱えることではなく、「10まで数えたときより、30まで数えたときのほうが身体がぽかぽかする」というように自分の気持ちと結びつけて体験できることです。

生活のなかで体験することが大切なんですね。それならお買い物などもよさそうです。

そのとおりです。「お肉を150g買ってきてね」と言われたときに、それがいくらでどれくらいの量なのか、持ち運んでいるときどのくらいの重さだったのか、そのように体感することがとても大切です。いつも買い物に行くお店まで何メートルの距離があって、歩くと何分かかるのか、測ってみるのもいいですね。自分の手足を動かして、日常生活のなかで与えられた数量的な課題を解く体験をたくさんさせてあげてください。

ドリルをくり返し解かせるよりも、「生活のなかで数を意識すること」ですね。我が家でも意識してみようと思います。

保護者が「うちの子、算数障害かも」と思ったとき、どんな機関に相談すればいいでしょうか?

小学校や中学校に設置されている特別支援教室であれば、知能検査も含めて専門的な相談ができると思います。

発達障害を扱う大学の相談室や、療育専門の塾なども増えつつあるようです。そうした施設を探してみるのも1つの方法になりそうですね。

私は算数障害で暗算ができないお子さんは計算する部分は電卓やICT(情報通信技術)に頼ってもいいと考えています。その分、数学的思考を伸ばすことに力を入れたいですね。お子さんにとって大切なのは、早く正確に計算ができることではなく、将来の自立した生活のために、生活のいろいろな場面で数学的な考え方を生かせるようになることです。ご家庭でもぜひその点を意識してほしいと思います。

【参照】
(※1)「疾病、傷害及び死因の統計分類」|厚生労働省 ・ ICD-10(2013年版)準拠 内容例示表 第5章 精神及び行動の障害(PDF)
(※2)「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」平成24年12月5日 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
(※3)特別支援教育について:文部科学省
(※4)主な発達障害の定義について:文部科学省


【プロフィール】
熊谷恵子(くまがい・けいこ)
1981年九州大学理学部卒業。1990年、筑波大学心身障害学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(教育学)。筑波大学人間系教授。専門は発達障害心理学。学習障害や光感受性障害の支援を行う。2007年、日本LD学会「学会発表奨励賞」受賞。臨床心理士、言語聴覚士、学校心理士スーパーバイザー、特別支援教育士。著訳書に『学習障害児の算数困難』(多賀出版)、『アーレンシンドローム「色を通して読む」光の感受性障害の理解と対応』(共訳、金子書房)、『思春期・青年期用 長所活用型指導で子どもが変わる Part5: KABC-IIを活用した社会生活の支援』(共著、図書文化社)、『共生社会の時代の特別支援教育 第2巻 学びを保障する指導と支援』 (共著、ぎょうせい)など。