体験しながら学び合うことができるボランティア活動

中高生がボランティアを始める意義とは? お子さん自身の興味・関心に合ったボランティアで、学びの場が広がる!-2

――岩切さんが理事を務められているNPO法人の活動は、ボランティアスタッフが中心となって企画・運営をされているそうですね。
どういった活動をされているのか、概要を教えてください。

はい。私が理事を務めるNPO法人「夢職人」では、子どもや若者の成長を支援する教育事業に取り組んでいます。
主に小学生・中学生を対象とする、自然体験・野外活動、スポーツ・レクリエーション、科学・文化芸術活動などのさまざまな分野のプログラムを企画・運営することで、年齢の異なる子どもたちが一緒になって体験活動ができる場を提供しています。

また、私たちの活動では、大学生や高校生も含む若者のボランティアスタッフが主体となっています。
参加者である子どもたちだけでなくスタッフである若者にも、多様な実体験を通して、社会を生き抜く力を身につけてほしいと考えています。

 

――学校ではできないような、特別な体験ができそうですね。それでは、体験活動の具体的な内容を教えていただけますか。

私たちのプログラムでは、キャンプや農業体験、公園内で創造的に遊べるプレーパークなど、自然の中で行えるさまざまな体験を中心に提供しています。
これまでの日本の学校教育では、受動的なインプット型の「学び」が中心でしたよね。
しかし本来「学び」とは、実践してみて自分に何が足りないか、改善すべき点はどこかに気づくことが、非常に大切です。

現在、学校教育の改革が進む中で、「アクティブ・ラーニング」という言葉が盛んに取り上げられています。
アクティブ・ラーニングは「講義」「読書」「視聴覚」といったpassive(パッシブ/受動的)な学習よりも、「グループ討論」「自ら体験する」「ほかの人に教える」といったactive(アクティブ/積極的)な学習のほうが効果的に学習できるという理論に基づいた考え方です。

私たちが行ってきた体験活動は、まさにアクティブ・ラーニングです。
なぜなら、参加者の子どもたちは「自ら体験する」場を得ることができるのはもちろん、スタッフである若者たちにとっても「ほかの人に教える」という要素が加わるので、お互いに学び合えるからです。

 

――ボランティアを通して、スタッフ側にも学びの機会が得られるのですね。岩切さんの団体のプログラムでは、どのような方々がスタッフとして集まっているのでしょうか。

スタッフには、社会人、大学生、高校生と、職業も年齢もさまざまな人が集まっていますね。

 

――幅広い世代の方が集まっているのですね。ボランティアスタッフの方々は、どのような役割を任されているのでしょうか。

たとえばキャンプの場合、ボランティアスタッフには生活の準備からレクリエーションまで、参加者である小中学生たちに安心して楽しんでもらうための段取り確認、準備、活動の手伝いなどの役割が任されています。

場合によっては、参加者である中学生にも、裏方のお仕事を一部手伝ってもらいます。
たとえば、飯ごう炊さんをやるときに「10班でやるから10班分準備をしてね」とこちらが声がけし、一緒に手伝ってもらうといった具合です。

スタッフの中には高校生もおりますが、ほかの社会人や大学生のスタッフと同じように、より高いレベルの役割を担ってもらっています。
実は、中高生が小学生の活動を手伝ったり、何か教えたりするということは、簡単にはできないことなんです。
小学生に質問されて中高生が答えに詰まる場面もよく目にします。

 

――自分がしっかり伝える内容を理解していないと、人に教えることはできないですよね。

その通りです。スタッフたちは、活動の中で「こんなふうに道具を用意したけど、小学生には使いにくかったみたい」「A班は楽しそうだったのに、B班は楽しくなさそうだった」など気づいた点があれば、「次はこうしてみよう」と必ず改善策を考えるようになります。結果的に、彼らは活動を通してすごく成長していきますね。 

 

ボランティアに参加することで人として成長できる!

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――なるほど、問題点に気づいて改善策を考えられるようになるのは、これからの社会で生きてゆくには大切な能力ですね!
ほかに、中高生がボランティアを通して成長できること、得られることはありますか。

まず大きいなと思うのは、学校の中だけでは学べない課題に深く関われることです。
スタッフの中には、「将来学校の先生になりたい」という高校生も参加していますが、たとえば発達障害についてどれだけ理解できているかというと、当然わからないですよね。

私たちのプログラムには発達障害のお子さんが参加することもあるので、実際にADHDと報告を受けている参加者のお子さんに対して、その子の特性として「どうしたら指示が伝わりやすいか」「どんなことに興味があるのか」と考えさせられる場面が多く出てきます。

このように、目の前のリアルな課題に触れることで「ではどうしたらよいのか」と課題と向き合い、行動するしかない状況が生まれます。
そのような状況を通して、いろいろな発見や気づきを得ることがたくさんあります。

 

――ボランティア活動によって、子どもたちが社会的に重要な問題に気がついてくれたらうれしいですね。
スタッフの方々は職業や年齢がさまざまとのことでしたが、さまざまな立場の大人たちと関わりができることで、子どもたちにどのような影響があるのでしょうか。

私たちの団体には帰国子女の高校生もいますし、大学生、外国人、さまざまな職業の社会人もいます。
このように多種多様な人たちがチームを組んで、一つの目標に向かって議論をしながら物事を進めていくので、とても高度なチームワークが身につきます。

中学生、高校生は、同じ地域の同じ年齢の子どもが集まる、きわめて同質性の高い「学校」が生活の中心です。
そのため、初めは「みんなで同じ行動を一緒にしよう」という発想になりがち。ところが活動を進めていくと、それぞれのメンバーの長所を活かして分担したほうが効率がよいことに気づきます。
この気づきによって、学校とはまったく違う世界が彼らの中に広がっていくんですね。

あとは、段取りや計画を考えることで、マネージメント力が身につきます。
それから、任せられた仕事をやりとげることで、リーダーシップを発揮できるようになっていきますね。

 

――マネージメント力、リーダーシップといった能力は、どれも社会で活躍するための基礎的な力となるものですね。
そのほかに、ボランティア活動を通して得られるものはあるでしょうか?

「人間関係」を得られるのも大きいと思います。現在の日本の社会では、自分より少し先を行く先輩と接する機会が極端に少ないんですね。
高校生にとっては「大学ってどう選べばいいの?」「大学生ってどんな生活をしているの?」などの悩みが出てきますが、身近に相談できる人が少ない。

私たちの団体では、さまざまな人が集まっていますから、リアルな声を聞くことができます。
たとえば団体内のネットワークシステムで、「文系の学部だと就職に苦労しますか?」「ITエンジニアにはどんな種類がありますか?」と質問があると、続々とコメントがつきます。

年齢や職業は違っても、一つの目標に向かって苦労した仲間だからこそ、リアルな悩みを相談することができて、助け合うことができる。
そういった関係性を学校の外で持てるのは、大きな強みになると思います。

 

まず、「自分はどんな社会的テーマに関心があるのか」を考えてみる

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――災害時の被災地の支援などが大きく報道されることもあって、ボランティアという言葉が広く知られるようになりました。
しかし、経験したことがない人にとってはイメージしにくいものでもあると思います。そもそもボランティアとは、どういう意味の言葉なのでしょうか。

ボランティアとはもともと軍隊で「志願兵」を指す言葉でした。兵役の義務を課せられる徴兵と反対に、自ら進んで参加した人という意味がもとになっているんですね。
ですから、「自発的に」「自主性を持って」というところがボランティアの一つのポイントになります。

実際にボランティアが参加する現場でも、中高生で親や先生に言われて来ている子は積極的に動くことができません。
そうすると、現場では役に立ちませんし、参加した意味がありません。

 

――自分の意思で参加することが大切なんですね。ほかにもボランティアと聞くと、環境問題への取り組みや、海外支援なども思いつきますが。

そうですね。ボランティアとは、特定の社会的な課題に対しての関わり方を表す言葉でもあります。
いま日本でも本当に多種多様なボランティアが募集されていますが、私たちが取り組んでいるような教育事業から、災害支援、福祉、環境問題など、社会に対して働きかけをするものがほとんどです。
基本的にボランティアとは、ある困りごとに対して支援をするものと言えます。

 

――なるほど。自発的に社会に対して働きかけるもの、ですか。さまざまなボランティア団体や活動がありますが、中高生だとどんなことができるでしょうか。

ボランティアを通した支援の枠組みは大きく4つに分けられます。

ひとつは、「お金」で支援すること。これは寄付ですね。

2つめに、「物」で支援すること。台風で家屋に被害があった地域にブルーシートを送る、避難所に必要な物資を送ることなどが考えられます。

3つめは、「専門性」をもって支援すること。医師や看護師、弁護士などの資格があれば専門性を持って支援できます。

そして4つめに、「労働力」を持って支援すること。時間をさいて片付けなどの手伝いをすることがこれに当たります。

被災地のボランティアというと、現地に行って片づけを手伝うことイメージする人も多いと思いますが、学校で呼びかけて少額でも寄付を集めてみようということも立派な支援の一つです。

 

――ボランティアにはさまざまな形があるんですね。では、中高生が「ボランティアをしたい」と思った時には、どんなことに気をつければよいでしょうか。

まず「ボランティアをしたい」という発想が少しずれているかもしれません。
というのは、先ほどお話したようにボランティアというのは社会との「関わり方」を示すものですから、まずは自分がどんな関わり方をしたいのかを考えることが大切です。

学校の先生になりたいと思っているなら、教育や子どもの問題に関わるボランティアを、自分の祖父母によくしてもらったから福祉に興味があるという人は介護施設でのボランティアなどを探してみましょう。
まずは「自分はどんな社会的な課題を解決したいのか」ということを考えてみてください。

ボランティアは「自発的に」というところがポイントだというお話もしましたが、動機づけという意味でも、「ボランティアをしたい」というよりは、自分はどんな課題に関心があるのかを考えるほうがよりよい選択ができると思います。

 

有意義な体験をするために、ボランティアを探すとき気をつけたいこと

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――いまインターネット上にはさまざまなボランティア募集が掲載されていますが、ボランティアの選び方で、なにかポイントはありますか?

日本でよく見られるボランティアを大きく分けると、「レジャー型」と「支援型」の2つがあります。

このレジャー型のボランティアとは、旅行ツアーのようにすべてお膳立てされているボランティアを指します。
たとえば、「海外の経済的に恵まれない地域の学校で子供たちと交流する」などの内容のものは、レジャー型のボランティアに当たります。

観光ではできない体験ができるとされているものが多いのですが、本当に現地の人の支援につながっているのかというと疑問が残ります。

こうしたレジャー型のボランティアは、ミニ留学や旅行と同じだと思ったほうがよいでしょう。

 

――レジャー型と支援型の見極めがポイントになるんですね。支援型のボランティアについて気をつけるべきことはありますか?

支援型のボランティアでは、「困っている人に対して何ができるか」が最大のポイントです。

たとえば、被災地の支援をするボランティアでも、困っている被災者が優先されますから、最低限、自分の衣食住に関する物資は自分で用意するのがボランティアの心構えとされています。
また、ケガに備えて保険の加入が義務付けられている場合がほとんどです。被災地の支援は比較的リスクの高いボランティアとも言えます。

私たちの団体の体験活動も、お子さんの安全に関して責任が生じるものですから、その点ではリスクが考えられます。

いっぽうで、よく報道されるハロウィンのあとのごみ拾いや海岸の清掃は、比較的リスクや負担が少ないボランティアだと思います。

 

――中高生がボランティアを探す時には、中高生でもリスクや責任を負えるかどうかという視点も必要になるんですね。

そうですね。初めてのボランティアでいきなり遠方の被災地に手伝いに行くのは、中高生にとっては難しいですよね。
ですから、住んでいる地域で募集されているボランティアから探してみるのも一つの方法だと思います。
地域に貢献するという意味では、消防団で募集している少年団員に参加してみるのもいいかもしれませんね。

 

――ボランティアといえば“被災地の片付け”など、体力勝負のイメージが強かったのですが、意外にいろいろな活動があるのがわかってきました。
たとえば、体力に自信がなくてもできるボランティアもあるのでしょうか?

本が好きなら、図書館のボランティアもあります。ほかにも、地域のスポーツや文化系のイベントでボランティアを募集していることもありますし、意外と身近にボランティアの機会はあるんですよ。

実は、IT関係でボランティアが募集されることも意外に多くあります。
年齢的に中高生を想定していない場合も多いのですが、パソコンのスキルに自信があるなら中高生でも問い合わせてみる価値はあると思います。

 

――本当にいろいろな種類のボランティアがあるんですね。実際に調べ始めると迷ってしまいそうです。ボランティアを探す時におすすめのサイトなどはありますか?

ボランティアを探す時には、ボランティア募集のポータルサイトが便利です。
「単発/継続」「活動テーマ」「対象年齢」「職業」などで絞り込んで探すことができるので、ぜひ活用してください。

 

中高生がボランティアに取り組む意義と保護者の関わり方

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――東京都ではオリンピック・パラリンピック教育の一環として、小学生・中学生・高校生のボランティア参加も呼びかけているようですね(※大会ボランティア自体は中高生応募不可)。
こうした取り組みに関しては、どのようにお考えになりますか?

これまで中高生にとってボランティアって、「優等生がやるもの」というようなイメージで距離感のあるものだったと思うんです。

中高生自体は東京五輪の大会ボランティアには応募できませんが、東京五輪のボランティアが話題になったことで、スポーツという切り口であったり、英語という切り口であったり、「ほかにもこういうボランティアがあるのかな?」と興味を持つきっかけになってくれたらいいなと思いますね。

 

――新しい大学入試では、学力以外の課外活動も広く評価する傾向があるとされているため、ボランティア活動に注目している中高生も多いと思います。こうした傾向についてはどう思われますか?

東京五輪のボランティアと同じように、ボランティアに興味をもつきっかけになるのならよいことだと思います。
最初は受験や成績のためだったとしても、実際にボランティアの現場に立ってみて、やりがいや面白さを感じ「次はこのボランティアをやってみよう」と思ってもらえたら、本当にうれしいです。

 

――これからは中高生の間でも、ボランティアに取り組む人が増えるかもしれませんね。

欧米では、中高生がボランティア活動をするのは日常生活の一環なんですよ。
大学入試でもインターンのような感覚で、やってきたボランティアの内容から、どんなことに関心があるのか、どんな活動をしてきたのかを見るのが一般的です。

私たちの団体のボランティアスタッフに応募してくれる高校生も、年々増えていると感じています。日本も同じようになっていくかもしれません。

 

――中高生がボランティアに取り組む意義は、どのようなところにあると思いますか?

日本の学校というのは同質性が高く、狭い世界だと、私はいつも感じています。
子どもたちが学校の外で多様な人たちと接し、社会に参加する機会がもっと増えることで、得られるものはとても大きいと思うんですね。
その一つの選択肢として、ボランティア活動はとても有意義だと思います。

高校生や大学生のうちから私たちのようなNPOなどに参加することで、先ほど言ったような社会人として必要なチームワークやマネージメント力、リーダーシップなどの能力を学ぶことができます。
学校の中だけでは学べない社会のリアルな問題に向き合って、自分の興味・関心を伸ばすこともできますね。ボランティアは、人として成長できる学びの場でもあるんです。

 

――今まで、ボランティアが「学びの場」であるというイメージはありませんでした。中高生にとってとても有意義な経験になりそうですね。
最後に保護者の方へアドバイスをいただきたいのですが、中高生のボランティアへの取り組みを上手くサポートするためには、どんな関わり方をするのがよいでしょうか?

まず、子どもたちが「親にやらされている」と感じることは避けたいので、ボランティアへ無理やり参加させようとするのはやめてください。
保護者の方が関わるとすれば、お子さんが自発的にボランティアを探している中で、本人の興味・関心とボランティアの内容がマッチしているかどうかを一緒に考えてあげることではないかと思います。

また、ふだんからお子さんの得手・不得手や、興味や関心のあることを意識してあげてほしいです。
そして、早くからお子さんたちが社会に接する機会を作ってあげてほしいですね。
進路問題や将来のことなど、社会の課題について考えるよいきっかけにもなりますから。

もし、お子さんがボランティアに興味を持っているなら、ぜひ背中を押してあげてください。
より広い人間関係の中に一歩踏み出すことで、お子さんが成長するための非常によい機会になるはずです。

 

 (プロフィール)
岩切 準(いわきり じゅん)

岩切 準

1982年東京都生まれ。東洋大学大学院社会学研究科社会心理学専攻修士課程修了。
認定NPO法人「夢職人」理事長。ウェブマガジン「ひみつ基地」編集長。
公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」理事。特定非営利活動法人「全国検定振興機構」理事。

東京の下町・江東区で育ち、高校時代には地域の子ども会の活動をサポートするジュニアリーダーに従事。
大学時代には教育、福祉、心理に関わるさまざまな団体で子ども支援に関する活動に携わった。
大学在学中の2004年に「夢職人」を立ち上げ、2008年にはNPO法人化し理事長に就任。
首都圏を中心に地域社会で子どもや若者の成長を支援する教育事業に取り組んでいる。

NPO法人夢職人
子どもと若者の成長を支えるウェブマガジン「ひみつ基地」