勉強法

正確に深く読む「速読」で記憶力・理解力も鍛えられる! 中高生の勉強に役立つ「速読」活用法 ~SP速読学院 橘遵さん・インタビュー~


文章を速く読めるようになる「速読」。もしそのスキルを身につけられたら、中高生の勉強の役に立つのでは……と気になる方も多いのではないでしょうか。
「速読」は身につけられるのでしょうか? また、どのように勉強に活用できるのでしょうか?
今回お話をうかがったのは、速読法指導の第一人者である橘遵(たちばなじゅん)さんです。

成績につなげるためには、速く正確に読めるようになる「速読」が必要



――橘さんはSP速読学院の学院長であり、速読の講師としてセミナーなどの経験も豊富でいらっしゃるそうですね。橘さんが最初に速読に興味を持たれたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

私が高校の教師をしていた時、難関校を受験志望のお子さんが、塾や家庭教師をかけもちしていました。
休憩時間もとれないほど勉強していて、それを見て「これでは勉強が嫌いになってしまう」と思ったのです。

そこで「勉強をもっと楽にしてあげたい」と考え、速読に興味を持つようになりました。

――それは大変温かいエピソードですね! そこから、どのような経緯で学院を立ち上げられたんですか?

実際にいろいろな速読法を見てきましたが、大半は「速く読む」ことが中心になっていました。どんなに速く読めても、不正確で浅い読み方では試験に役立ちません。

「そこで速く読めること・正確に理解できること・記憶に残ること」すべてを重視した速読法を体系化しました。
これをもとに、1997年に速読を指導する学院を立ち上げ、現在までノウハウを積み重ねています。

――なるほど、「速く読める」だけでなく、「正確に理解できる」「記憶に残る」のはとてもありがたい速読法ですね。ちなみに速読法を身につけると、どのくらいの速さで文章を読めるようになるのですか?

一般的な日本人は、1分間に500~700文字くらいのスピードで文章を読んでいると言われています。文庫本ですと、1分間で約1ページ。
1分間に2000~3000文字くらい読めれば、通常の4倍以上の速さですから「速読」と言えます。ただ、中には1分間に100万文字とうたっているところもありますね。

――100万文字とはすごいですね! 1分間に読める文字数が多ければ多いほど、役に立つのでしょうか?

もちろん役に立つことも多いです。ただ気をつけたいのは、飛ばし読みやななめ読みなど、おおざっぱに速く読むことを「速読」と言っている場合が多いことですね。
速さだけを追求している速読法は理解や記憶を無視しています。

飛ばし読みではすべての文字を見ていないので読み間違いが起こり、試験などでは成績につながりません。

――なるほど。ただ速いだけの読み方では、実力につながらないんですね。

勉強の役に立つためには、「速く読む」だけでなく、「精読」や「熟読」が必要になります。

「精読」とは、細かい部分まで正確に読むことです。教科書などは精読で読むのが望ましいでしょう。
「熟読」とは行間を味わうように、深い思考が働くように読むことです。国語の試験の問題文を読む時などは、みなさん自然と熟読になっていると思います。

私たちの学院では、斜め読みや飛ばし読みの速読は行わず、精読、熟読で速く読めるようになることを重視しています。
実際のイメージとしては、1分間に速読で1万文字、精読で5000文字、熟読で1500~2000文字くらいで読めるくらいの速さです。

中高生が「速読」のトレーニングをすることのメリット



――中高生が速読のトレーニングをすることで、とくに勉強面でよい影響はありますか?

まずは文章を速く読めるようになれば、勉強時間自体を短縮できます。試験の時間でも同様です。
多くの人は、問題文と設問を読むことに時間をとられてしまいますが、速く正確に読むことができれば、2回、3回とくり返し読み直してミスを減らすことができますので、無理なく成績を上げられるでしょう。

――速読のトレーニングをすることで、記憶力や読解力も上がると聞いたことがありますが、その点はいかがですか?

そうですね、速読で記憶力や読解力を上げることは可能でしょう。文章を読んでいる時、人の脳のワーキングメモリという部分では複雑な処理が行われています。
私が指導しているのは、このワーキングメモリを効率的に使えるようにトレーニングして、理解する・覚える・考えるという処理に集中する方法です。

また、人の記憶はくり返し覚えようとすることで定着しやすくなります。速読で速く読めるようになった分、くり返し読む回数を増やせます。
つまり、速読は記憶力や読解力を向上させるためにも活用することができるのです。

――ワーキングメモリについて、くわしく教えていただいてもよろしいでしょうか?

ワーキングメモリとは、作動記憶、作業記憶とも呼ばれる、一時的に情報を保持したり処理したりする場所になります。

このワーキングメモリは脳の前頭前野が担っているとされ、会話・読み書き・計算など、私たちの日常の判断や行動に深く関わっていることが知られています。

――なるほど、文章を読むのにもワーキングメモリが使われるんですね。

「速読」をマスターするには、「自動化」と「チャンキング」がポイント

 

文章を読む時にワーキングメモリで行われる処理は、おおむね以下の7つの過程に分けられます。文章を読むのが得意な人は、この7つの過程をスムーズに行うことができるんです。


(※SP速読学院HP「理解力や記憶力が高まる速読トレーニングの方法」をもとに、編集部でグラフを作成)

――文章を読んでいる時、脳ではこんな処理がされているんですね。たしかに複雑です。

パソコンでもメモリが足りないと動作が遅くなったり、フリーズしたりしますね。
多くの人が本を読んでも内容を覚えていなかったり、内容が理解できずに返り読みをしてしまったりするのは、ワーキングメモリの容量不足によるものなのです。

私たちのトレーニング法は、この容量不足を解決するために、ワーキングメモリを効率よく使うことを目標にしています。

――パソコンにたとえるとわかりやすいですね! ワーキングメモリを効率よく使う方法とは、具体的にどのようものなのでしょうか?

ワーキングメモリを効率化するための方法は、主に2つあります。「処理を自動化する」ことと、「ワーキングメモリを増やす」ことです。

――なんだかどちらも難しそうですが……まず、「処理を自動化する」とはどういうことか、教えてください!

たとえば、九九の計算をする時にいちいち解答を考える人はいませんね。これは、自動的に答えが出てくる状態までくり返し練習したからです。

くり返し練習すると、脳の中の神経細胞同士の接点にあるシナプスがつながり、処理を自動化することができます。
自動化された処理は、速くて正確で、ほとんど努力がいりません。私たちの速読トレーニングでは、文章を読む過程を自動化する訓練をします。

――なるほど。では「ワーキングメモリを増やす」とは、どういうことですか?

記憶術の世界チャンピオンなどが用いている「チャンキング」を活用します。チャンク(chunk)とは「かたまり」という意味で、チャンキングとは物事をグループ化してかたまりで覚えていく方法です。

この「チャンク」は脳が情報を処理する時の単位としても使われます。ひと目で理解できる文字数をリーディングスパンと言いますが、一般的な日本人のリーディングスパンは1文節の5~7文字程度です。
1ページ600文字の文章を読む時、ワーキングメモリの容量を約100チャンク使うとします。

5文節をまとめた25~35文字をひと目で理解できた場合、1ページで約20チャンクの容量で処理できることになります。すると、1ページあたり80チャンクが節約されます。

このようにリーディングスパンが広がると、ワーキングメモリの容量が増え、処理の効率化が進みます。もちろん、文章を速く読めるようにもなります。

――文章を読む処理の「自動化」と、リーディングスパンを広げる「チャンキング」が、「速読」をマスターするポイントになるんですね。
「速読」と聞くと、超能力のようなイメージがありましたが、脳の情報処理など科学的な理論に基づいたものであることがわかりました!

眼筋ストレッチでリーディングスパンを広げる! 「速読」トレーニング法



――ここまでは、「速読」の理論の部分をうかがってきました。次に気になるのは、実際に行われている「速読」の具体的なトレーニング方法です。
先ほどのお話に出たリーディングスパンを広げるというのは、どうトレーニングをすればいいのでしょうか?

速読で1分間に1万文字の速さで読もうとする時には、1行40文字程度の文章でおよそ3行ずつをひと目でとらえて、視線を波のように動かして読んでいきます。
素早く視線を動かしながら読む必要がありますので、目の動きをよくするための準備運動として、以下のような「眼筋ストレッチ運動」を行います。 

【眼筋ストレッチ運動のやり方】
両手の親指を立てて目の高さに上げ、上下左右ななめに親指を動かし、顔を正面に向けたまま指を目で追います。一つの方向につき20秒ずつ視線をキープしましょう。

①両手の親指を目の高さで左右に広げる
a. 右の親指を横目で見る b.同様に左の親指を見る



 

②両手を上下に広げ、視界の端に親指が見える位置に固定する
a. あごを引いて上の親指を見る b.自分のほほを見下ろす感覚で下の親指を見る


③右の親指を右ななめ上、左の親指を左ななめ下に固定する
a. 右ななめ上の親指を見る b.左ななめ下の親指を見る

 ④右の親指を左ななめ下、左の親指を左ななめ上に固定する
a. 右ななめ下の親指を見る b.左ななめ上の親指を見る

 ④ 最後に、両目を右回りに5回、左回りに5回、ぐるぐると回転させる


(※橘さんの書籍『ひと晩5冊の速読術』より引用) 

この運動によって、眼球の動きをつかさどっている内直筋、外直筋、上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋という筋肉を動かす練習をします。
リーディングスパンを広げたり、視線の移動を速くしたりするための筋力トレーニングにもなります。速読のための目を作るということですね。

――なるほど、速く読むための目の動かし方の練習から始めるんですね。そのほかには、どんなトレーニングがありますか?

速読のための目を育てながら、独自のパソコンソフトを使って脳での処理を高速化する訓練も行います。
基礎的なトレーニングを例にすると、「単語再認自動化トレーニング」「文節読みトレーニング」などが挙げられます。 

――「単語再認自動化トレーニング」とは、どんなトレーニングですか?

「単語再認自動化トレーニング」は、先ほど紹介した文章を読む時の処理の過程を自動化するためのトレーニングです。
このトレーニングでは、画面に表示されるさまざまな単語を見て、素早く単語の意味を記憶から瞬時に引き出す訓練をします。

レベルに合わせて、小学校、中学校、高校レベルの単語から、一般書や専門書、英単語などの用語まで練習できるので、上達すれば英文や専門書でも返り読みのクセがとれて速く読めるようになります。 

――「文節読みトレーニング」とは、さきほどお話に出たチャンキングやリーディングスパンを広げる訓練になるのでしょうか? 具体的にはどんなことをするのですか?

そうですね。このトレーニングも、画面に表示される文節や文章などの一定のかたまりを目でとらえて、文章を読む時の処理の過程を素早く行う訓練をします。

これによって、とくに頭の中で音声化するクセをとることができます。ひと目で理解できる範囲が広がってきたら、より大きなかたまりにステップアップして練習します。
文節、段落、複数行といったかたまりでとらえて素早く理解する練習をすることで、チャンキングを自動化することが目的です。

――いきなり文章を速く読む練習をするのではなく、少しずつステップアップして訓練するんですね。こうしたトレーニングを通して、速読をマスターするにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?

あるテレビ番組で高校生にレッスンをした時には、小説を精読して1分間800文字くらいの読書スピードだった生徒さんが、2~3時間のトレーニングで1分間2000文字まで読めるようになりました。

もう1人の生徒さんは1分間1200文字くらいだったのが、16800文字まで伸びました。
ふだんの読書量や生活習慣の違いなどにもよりますが、1分間2000文字、ふつうの人の約4倍くらいでしたら、2~3時間のトレーニングでも上達はできます。

――意外に早く結果が出るものなんですね。

ただし、1分間に約2000文字のレベルですと、まだ音声化が残っている状態です。ある程度、自分で「速読ができるようになった」と感じられるのは、1分間に3000文字以上くらいだと思います。

1分間3000文字以上を精読のレベルで読むには、80分のレッスンを15回程度というのが目安になるでしょう。

「速読」が役に立つ教科は? 教科ごとの中高生の勉強への活かし方



――ここまでお話をうかがってきて「速読」がどんなスキルなのか、イメージができるようになったと思います。
ここからは、中高生が活用できるように、教科ごとに勉強法を教えていただきたいです。速読を活かせる教科というと、いちばんに国語が思い浮かびますが、国語での速読のメリットはどんなことが挙げられますか?

大学入試センター試験(2019年7月現在)の国語では、現代文のみの試験時間は45分、問題文は1万5,000文字程度です。1分間500文字の速さだと、問題文を読むだけで30分はかかってしまいます。

しかし、1分間に1000文字を読むことができれば15分で済みますので、じっくり考えたり、問題文や設問を読み直したりする余裕ができます。
深い思考を働かせる「熟読」で読み直す時間がとれて読めるようになると、試験の点数が上がってきますよ。

――SP速読学院では英語の速読も指導されているそうですね。

はい。英語も文章を読む処理は理論的にそれほど変わりませんので、英文をネイティブの3~4倍の速度で読むということも充分可能です。
英文速読のトレーニングの一環としてチャンキングを活用して、英語の類義語をまとめて覚えるという練習も行っていますので、語彙力を上げる訓練にもなります。

また、語彙力以外にも大切になってくるのが、背景知識です。
たとえば受験で環境問題がテーマの問題が出た時、日本語の新聞などで同じテーマの文章をいつも読んでいれば、背景知識があるために英語でもずいぶん答えやすくなります。
ですから、受験に出やすいテーマに関する文章を日本語でもよく読んでおくと、英文を理解するために役立てることができると思います。

さらに、受験対策の問題集などで、英文を訳しながら読むのは時間がかかるので、日本語訳を読んでから英文を読んでいくとよいと思います。
もちろん、速読が身につけば、よりスピード感を持ち読み直すことも可能で、量をこなすことができるので、英文読解が楽になってきます。 

――社会や理科でも速読は活かせますか?

はい、活かせます。社会や理科は暗記科目と言われ、背景知識が多いほど有利になります。
参考書でも1冊だけでなく2冊読むことができたら、違う情報が載っていたり、とらえ方が違ったりして、知識量を厚くすることができます。

速く読めるようになった生徒さんの中には、全集まで読むようになった人もいます。そういう場合は相当な知識量になってきます。 

――数学でも問題文は日本語ですから、正確に速く読めたほうが有利になりそうですね。速読は、どんな中高生にとくに役に立つと思いますか?

成績が思うように伸びずに悩んでいる中高生、とくに難関校を狙うお子さんは速読で差をつけられる部分が多いと思います。

速読には教科ごとのメリットもありますし、全体的に理解力、記憶力なども鍛えることができます。

――たしかに難関校合格を目指すなら有利なスキルになりそうですね。反対に、読書が嫌いという生徒さんでも「速読」にトライする価値はあるでしょうか?

文章を読む時の頭の中の処理として、単語的な知識、概念知識、背景知識などを検索する過程があります。
読書量が増えれば増えるほど、心内辞書(頭の中の知識)のストックが増えていき、読むことが容易になっていきます。

また、人は1日で約70%の記憶を忘れてしまうと言われています。読書も日数をかけて読むと、最初の方に読んだ内容を忘れてしまいます。
内容を忘れると興味を失うので、読書がおっくうであれば、一気に読めたほうが、記憶の定着率が上がり理解度もよくなるでしょう。

最初は少し大変ですが、速く読めるようになると、だんだん読書が楽しくなってきます。読書が苦手という人でも、児童書など易しい本や、興味のある分野の本から始めてみてはいかがでしょうか。

「速読」は情報化社会を生き抜くためのスキルにもなる!

――最後に、「速読」に興味を持っている中高生や保護者の方にメッセージをお願いします!

ここまでお話したように「速読」は、中高生のみなさんのテストや受験対策としても有効なスキルになります。
それだけでなく、速く正確に文章を読んで理解し記憶できることは、情報処理能力が高まることでもあります。

私たちが今生きている現代は、スマートフォンに代表されるように、ものすごい量の情報が行きかう、高度に情報化された社会です。
当然、社会に出てからも、情報を素早く処理することが求められます。

これからの社会を乗り切っていこうとするならば、情報処理のスピードアップは必須と言えるでしょう。
そういった意味でも、中高生のうちから「速読」のスキルを身につけることができれば、一生役に立つスキルになるはずです。


(プロフィール)
橘 遵(たちばな じゅん)

1951年生まれ。SP速読学院 学院長。高校教師、予備校講師を経て、日本における速読法指導者の第一人者となる。1997年にSP速読学院を設立。現在は東京、大阪、名古屋、京都の各教室で速読法を指導。朝日カルチャーセンターやNHKカルチャーで速読法講座の講師を10年間、辰己法律研究所(司法試験予備校)速読法講座の講師を3年間務めるなど、講師としても活躍。コンピュータを使用して脳の認知技能の自動化をはかり、速読力、読解力、記憶力を向上させる業界屈指の指導ノウハウを持つ。2006年からは米・ブリガムヤング大学でもSP式速読法を指導している。NHK「あさイチ」、日本テレビ「ズームイン!! SUPER」等メディアにも多数出演。著書に『確実に身につく 速読の技術』、『ひと晩5冊の速読術』(共に河出書房新社)、『速読術が日本史でマスターできる本』(幻冬舎/共著)など多数。

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